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採用活動が複雑化する現代において、企業が必要な人材を獲得するためには、求職者の視点に立った採用計画の設計が重要となります。その中で注目されているのが、マーケティングの分野で用いられる「カスタマージャーニー」です。
本記事では、採用におけるカスタマージャーニーの基本と作り方、導入するメリット、成功のポイント、そして解決できる採用課題までそれぞれ解説します。
カスタマージャーニーと採用の関連について
ここでは、カスタマージャーニーの基本的な考え方と、採用活動にどのように活用できるのかについて解説します。求職者の行動や心理を可視化することで、採用プロセス全体の課題を把握し、より効果的なアプローチを設計することが可能になります。
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、マーケティングの分野で用いられる代表的なフレームワークのひとつです。自社の顧客となる架空の人物像(ペルソナ)を設定し、その人物が自社の商品やサービスを知ってから購入に至るまでの一連の流れを可視化します。
この過程を整理することで、企業は顧客の行動や心理の変化を理解し、適切なタイミングで必要な情報を届けられるようになります。
結果として、認知拡大から購買促進までを戦略的に支援できるため、現在では多くの企業でマーケティング施策の基盤として活用されています。
採用におけるカスタマージャーニーの重要性
採用活動におけるカスタマージャーニーは、求職者を「顧客」、企業を「商品・サービス」と見立てて考える手法です。この考え方を採用分野に応用したものを「キャンディデイト・ジャーニー」と呼びます。
企業は、求職者(ペルソナ)の行動や心理を理解し、認知から応募・内定に至るまでの各プロセスに応じて最適な情報提供を行うことが可能になります。
たとえば「どのタイミングで接点を持てるのか」「どんな情報が応募意欲を高めるのか」を見極めることで、求職者に響く採用施策を設計できます。
採用市場が「売り手優位」の時代に入り、特に優秀層や専門職人材が慎重に企業を選ぶ今、こうした求職者視点のプロセス設計は不可欠です。カスタマージャーニーを導入することで、感覚的な採用活動から脱却し、再現性と改善可能性を備えた仕組みへと変えることができます。
採用活動をPDCAで継続的に改善したい企業にとって、今や欠かせない視点といえるでしょう。
カスタマージャーニーマップの見方
採用のカスタマージャーニーは、求職者が企業と出会い、応募・内定・入社に至るまでの一連のプロセスを可視化したものです。
各ステージでは、求職者の思考・行動、接点(タッチポイント)、課題、そして企業が取るべき施策を整理します。以下はその一例です。
| ステージ | 認知 | 興味関心 | 情報収集 | 比較検討 | 応募 |
| タッチポイント | 求人広告、SNS、口コミ | 企業HP、SNS投稿 | 求人詳細、社員インタビュー | 面接、説明会 | 内定通知、フォロー |
| 思考・行動 | 企業を知る・興味を持つ | 自分に合うか考える | 詳細を調べる | 他社と比較する | 応募を決意する |
| 課題 | 魅力的な情報不足 | メリットが伝わらない | 情報が見つけにくい | 競合に劣る印象 | 対応が遅い |
| 施策 | SNS強化、口コミ促進 | ペルソナ別訴求 | 求人ページ整備 | 競合分析・強み訴求 | 迅速対応・個別フォロー |
このように、求職者がどのようなきっかけで企業を知り、どの媒体で情報を集め、どの瞬間に応募を決意するのかを段階的に把握します。
もともと購買プロセスの理解に使われていた手法を採用に応用することで、求職者の行動や感情を多角的に分析でき、的確なコミュニケーション設計が可能になります。
採用活動におけるカスタマージャーニーマップの作成方法
ここでは、実際に採用カスタマージャーニーマップを作成するための手順について解説します。目的設定からペルソナ設計、接点の整理、課題抽出までの一連の流れを理解することで、求職者視点に基づいた採用施策を構築できます。
目的とKPIの設定
採用におけるカスタマージャーニーマップを作成する際は、まず「目的」と「ゴール(KPI)」を明確にすることから始めます。
たとえば、「自社の認知度を高めたい」「エントリー数を増やしたい」など、採用活動全体の方向性を定めることで、以降の施策検討やデータ収集の精度が高まります。
また、「営業経験3年以上の人材を3名採用する」だけでなく、「来期の売上向上に貢献できる人材を確保する」といった業務目標と紐づけた設定が理想です。
さらに、応募から内定までのスピード向上や辞退率の低下といった数値目標もKPIとして設定しておくと、効果測定や改善が行いやすくなります。
ペルソナ設計
目的を明確にした後は、採用したい理想の人材像=ペルソナを具体的に設定します。
ペルソナとは、ターゲットとなる架空の求職者の人物像を指し、性別・年齢・職歴・スキル・価値観・ライフスタイルなどを細かく決めていきます。
たとえば、「法人営業5年以上の経験を持ち、顧客深耕を得意とする30代男性」など、実在するように描くことで、求める人材像のズレを防げます。
また、ペルソナがどの情報源を使い、どのような条件を重視するか(給与・働き方・文化など)も明確にします。
実際に活躍している社員へのヒアリングも有効で、現場感のあるリアルなペルソナ設計が可能になります。
接点の棚卸し
次に行うのが、求職者と企業が接触する「タッチポイント(接点)」の洗い出しです。
求人媒体(リクナビ・マイナビなど)、SNS(LinkedIn・Xなど)、公式サイト、口コミサイト(OpenWorkなど)に加え、業界イベントやコミュニティなども含めて整理します。
各接点で、求職者がどのような情報を求め、どんな行動を取るのかを把握することで、効果的な情報発信や接触設計が可能になります。
情報収集
情報収集は、マップ作成に欠かせないプロセスです。採用市場のトレンドや求職者の行動傾向、自社の採用データを調査するとともに、ペルソナに近い社員へのヒアリングを行いましょう。
多角的な情報収集によって、求職者の行動原理や興味・関心を推測できます。「自社のどんな要素に魅力を感じるのか」という仮説を立てることが、より的確な採用施策の設計につながります。
感情曲線と課題の抽出
収集した情報をもとに、各フェーズでの求職者の感情や行動の変化を可視化します。
認知段階では「企業を知る・興味を持つ」、応募段階では「条件やキャリアを検討する」といった流れを整理し、ポジティブ・ネガティブな感情の起伏を捉えましょう。
同時に、各段階で発生しうる課題や障壁(例:認知度不足、情報が届かない、面接対応の遅さなど)を洗い出します。これにより、求職者がどの段階で離脱しているのか、原因を把握できます。
原因特定および施策検討
課題が明らかになったら、その原因を特定し、改善策を検討します。
たとえば、「応募率が低い」場合は、求人票の訴求内容やスカウト文の精度を見直す、「面接辞退が多い」場合は、日程調整やフィードバック体制の改善を検討します。
また、採用専用のLPを整備して社員インタビューを掲載する、SNS広告でペルソナに合わせた訴求を行うといった具体策も有効です。
施策の優先順位付け
すべての課題を一度に解決するのは困難です。そのため、影響度と実現性の観点から優先順位を付けましょう。
「母集団形成→応募率→辞退率→定着率」といった採用フロー全体の流れを意識しながら、優先的に改善すべき項目を整理します。
優先度を明確にすることで、リソースを効果的に配分し、無理なく施策を実行できます。
KPI計測・連携
施策を実行したら、設定したKPIと照らし合わせて効果を検証します。
応募数や選考通過率、内定承諾率などの定量データに加え、求職者アンケートなどの定性情報も活用して分析します。
また、人事部門だけでなく、現場や経営層ともデータを共有し、組織全体で改善に取り組むことが重要です。KPI計測と連携を継続することで、再現性のある採用プロセスを構築できます。
実行・運用計画
最後に、策定した内容を実行計画に落とし込みます。
求職者の行動プロセスをマップとして可視化し、フェーズごとに「行動」「心理」「課題」「必要な情報」を整理して採用チーム全体で共有しましょう。抽象的な表現を避け、具体的な行動・改善案を記載することがポイントです。
マップは一度作って終わりではなく、結果をもとに定期的に更新しながら運用することで、常に現状に即した採用活動を維持できます。
採用カスタマージャーニーのメリット
ここでは、採用活動にカスタマージャーニーを導入することで得られる主なメリットについて解説します。求職者理解の深化やミスマッチ防止、施策改善など、採用活動をより効果的・効率的に進めるためのポイントを整理します。
求める人材への効果的な訴求
カスタマージャーニーを採用活動に導入することで、ペルソナに合わせた効果的なアプローチが可能になります。
各フェーズで求職者の心理や行動を踏まえた施策を立案できるため、採用活動全体の効率化にもつながります。
また、ターゲットとなる求職者の行動分析をもとに、どのタイミングでどんな情報を提供すべきかを明確にできる点も大きなメリットです。
このように、心理や行動のデータを基にしたアプローチは、求職者の関心を高め、エントリーへと導く効果が期待できます。
採用ミスマッチの防止
カスタマージャーニーマップは、自社が求める人物像の行動プロセスや心理状態をもとに設計されます。
そのため、このマップをもとに採用された人材は、適切なアプローチを経て採用されており、自社に対する理解やエンゲージメントが高い傾向にあります。
入社前の段階で企業理解度が高い状態にあることで、「思っていた職場環境と違う」「自社が想定していた人物像とは異なる」といったミスマッチを防げます。
結果として、採用後の早期離職リスクを低減できる点も大きな特徴です。求職者と企業の双方が納得感を持った採用を実現できるでしょう。
採用施策の立案・改善
カスタマージャーニーを活用することで、採用活動における課題や戦略を可視化できます。
これにより、採用施策をより具体的に立案・改善し、精度を高めていくことが可能になります。
立案と改善を繰り返すことで、企業ごとの採用プロセスに合った精度の高いカスタマージャーニーマップが完成し、求める人材の獲得につながります。
また、応募減少や辞退増加といった状況が発生した場合にも、データを基に原因を分析し、プロセス全体をアップデートすることができます。
このように、カスタマージャーニーは採用プロセスの改善サイクルを支える実践的なフレームワークです。
採用担当者間の認識のズレの防止
複数の採用担当者が稼働している企業では、担当者ごとに判断基準や優先順位が異なることで、採用方針にズレが生じることがあります。
カスタマージャーニーマップを共通の基盤として活用することで、「どのような人材を」「どの目的で」「どの手法で」採用するのかを全員が明確に共有できます。
これにより、採用担当者間の認識を統一し、一貫性のある採用活動が可能になります。特に大企業や複数部署が関わる採用プロジェクトでは、カスタマージャーニーが組織内の共通言語として機能し、採用方針のぶれを防止します。
採用コストの削減
カスタマージャーニーの導入によって、フェーズごとのタッチポイントや施策効果を可視化できます。
過去に実施したものの効果が薄かった施策を見直すきっかけにもなり、不要な施策を省くことで効率的な採用活動が実現します。
求職者の心理や行動を正確に把握できるようになるため、無駄な広告出稿やイベント開催を減らし、リソースを本当に必要な箇所に集中させることができます。
結果として、採用コストの削減につながるだけでなく、同じ予算でもより成果の出る採用活動が可能になります。
採用においてカスタマージャーニーを成功させるためのポイント
ここでは、カスタマージャーニーを採用施策に落とし込み、成果につなげるための実践的なポイントについて解説します。求職者視点の維持やチーム連携、定量的な分析など、継続的な改善を行うための考え方を紹介します。
求職者の目線で考える
カスタマージャーニーマップを設計するうえで最も重要なのは、常に求職者の立場に立って考えることです。
目標やゴール、ペルソナを設定する際に企業側の理想や主観を詰め込みすぎると、実際の求職者行動とかけ離れたマップになってしまいます。
求職者が採用プロセスのどの段階でどのような感情を抱き、何を必要としているのかを深く理解することが欠かせません。
たとえば、認知段階では「企業を魅力的に見せる情報」が求められ、興味関心の段階では「業務内容やキャリアパスの具体性」が重視されます。
このように、求職者の心理や行動に寄り添った設計こそが、採用プロセス全体の質を高める鍵となります。
定量的なKPIを設定する
カスタマージャーニーを活用する際は、抽象的な目標だけでなく、定量的に測定可能なKPIを設定することが大切です。
応募数、辞退率、内定承諾率などの数値を指標として設定することで、施策の成果を明確に評価でき、改善にもつなげやすくなります。
KPIを基準にデータを蓄積・分析することで、どのフェーズに課題があるのかを客観的に把握できるようになります。
このような定量的な目線を持つことで、感覚的な判断に頼らない再現性の高い採用活動が実現します。
大枠を捉えることから始める
カスタマージャーニーマップを最初から完璧に仕上げようとする必要はありません。まずは最低限の項目を設定し、大枠の流れをつかむことから始めましょう。
フェーズごとの求職者の行動や心理を整理し、実践と改善を繰り返すことで、少しずつ精度を高めていくことが重要です。
「一度作れば終わり」ではなく、採用市場や求職者の変化に合わせて柔軟にアップデートしていく姿勢が、良質なカスタマージャーニーを育てます。
チーム全体で共有する
カスタマージャーニーは、採用チーム全員が共通の理解を持って活用することが成功の鍵です。
マップに基づく情報を共有することで、面接官や採用担当者が一貫したメッセージを発信でき、求職者に統一感のある体験を提供できます。
また、採用担当者だけでなく、オンボーディング担当者や現場リーダー、新人研修担当などとも共有することで、採用から入社後までのプロセス全体を最適化できます。
チーム全体で方向性を合わせることにより、採用のスピードと質の両立が実現します。
継続的に改善する
カスタマージャーニーは一度作って終わりではなく、継続的に見直し、改善を重ねることが重要です。
採用市場やターゲット層の変化に応じて、常に内容を最新化する必要があります。たとえば、応募者数の減少や辞退率の上昇などの問題が発生した場合には、データに基づいて原因を分析し、改善策をマップに反映させます。
さらに、求職者アンケートや面接後のフィードバックを取り入れることで、候補者の不安や不満を解消し、より良い採用体験を提供できます。
作成して終わりにしない
カスタマージャーニーマップは、作成した時点で完成ではありません。採用市場の変化や候補者の行動パターンに合わせ、定期的に内容を見直すことで、常に現場に即した状態を保つことができます。
作成当初は仮説に基づいた内容でも、実践を通じて得られた結果やデータをもとに修正を加えることで、より現実的で効果的なマップへと進化します。
作って終わりではなく、運用して育てるという意識で取り組むことが、成果を出すための最大のポイントです。
カスタマージャーニーで解決できる採用課題
ここでは、カスタマージャーニーの活用によって改善できる具体的な採用課題について解説します。母集団形成の強化、内定辞退の防止、定着率の向上といった、人事担当者が直面しやすい問題をどのように解決できるのかを整理します。
母集団形成がうまくいっていない
母集団の形成が進まない原因として、企業の認知度不足や訴求内容の不一致が挙げられます。
特に、ターゲット層に届くタッチポイントが限られていたり、発信する情報が求職者の関心や期待に合っていない場合、この課題が顕著に現れます。
このような母集団形成の課題は、以下の3つの施策によって解決が可能です。
- ペルソナ設計:理想の求職者像を明確にし、その人物が利用する媒体や重視する価値観を分析する。
- タッチポイント拡充:ターゲット層の行動に合わせ、SNS広告やイベント参加など効果的な接点を増やす。
- 認知度向上:社員によるSNS発信や成功事例の共有など、自然な形で企業を知ってもらう施策を強化する。
内定辞退が多い
選考や内定辞退が多い場合、求職者が選考プロセスや内定後の対応に不安や不満を感じている可能性があります。
特に、面接の手間が多かったり、他社と比較してスピードや情報提供の面で劣ると、辞退率が上がりやすくなります。
この課題は、次の3つの施策で解消することが可能です。
- プロセスの簡略化:面接回数の削減や迅速なフィードバックにより、スムーズな選考体験を提供する。
- 辞退理由の分析:アンケートなどでデータを収集し、待遇・情報提供・対応スピードなどの改善に反映させる。
- 内定後フォロー:内定者イベントや社員交流の場を設け、不安を解消しエンゲージメントを高める。
入社後の定着率が低い
入社後の早期離職が多い場合、採用時の期待値と実際の職場環境とのギャップや、オンボーディングの不備が原因であることが一般的です。入社前に十分な情報が共有されていないと、業務や環境への不安が生じやすくなります。
この定着率の課題は、次の3つの対策によって改善できます。
- 期待値調整:採用段階でリアルな業務内容や社風を伝え、入社後のギャップを防ぐ。
- オンボーディング整備:入社初日から研修・メンター制度を通じて職場への適応をサポートする。
- 職場環境改善:定期的な満足度調査を行い、働きやすさを高める施策を継続的に実施する。
おわりに
採用活動におけるカスタマージャーニーの活用は、求職者目線での採用計画の設計をサポートし、母集団形成の実現や内定辞退の防止、入社後の定着率向上などの課題解決につながります。
本記事にて紹介した作成方法やメリット、ポイントなどを参考に、最適なカスタマージャーニーマップを作ることで、採用活動を成功させましょう!

